筋膜NEWS②筋膜マニピュレーション
ファシャルマニピュレーションの治療原理は筋膜の滑走性の回復。
その施術力が違います。
目白大学 保健医療学部理学療法学科、大学院リハビリテーション学研究科准教授
小川 大輔
プロフィール
日本筋膜マニピュレーション協会代表理事。日本でいち早く筋膜マニピュレーション技術の研究に関わり、その技術の習得に邁進して、現在、筋膜マニピュレーション界で世界に40人、日本に2人と言われる「ティーチャー」の資格を有する。
筋膜のセンサを駆使して力を感知し、筋膜を滑走させて力を遠位へと伝える。
筋膜には、先述した連続性に加えて、知覚機能と滑走機能という特徴があります。まず、知覚機能は、腱周膜と筋内膜に埋まっている筋紡錘によって、筋肉が引っ張られると感知して防衛的に反応し、意志と関係なく戻ろうとする力を生み出し収縮させます。つまり、深筋膜は筋紡錘の作用を介して一つの分節で発生した張力を他の分節へ伝達し、複数の分節の筋肉の活動を同期したり調節して身体運動を円滑にしているのです。また、その伝達という役割を果たすために深筋膜には滑走するシステムが装備されています。それは、筋膜の層と層の間にある疎性結合組織から分泌されたヒアルロン酸が、潤滑剤となって滑走する仕組みです。
深筋膜の滑走が失われ筋膜が固まる。それはヒアルロン酸の粘稠度の上昇が原因。
そこで、深筋膜を常に滑走させるために、潤滑剤となるヒアルロン酸が適切に維持される必要があります。ところが、それが簡単ではなくて、さまざまなストレスによってヒアルロン酸がネバネバになってしまい、そうなると筋膜が滑走できなくなって機能不全に陥るのです。では、なぜヒアルロン酸に粘稠度の上昇が始まるのか。
それは、温度が下がるからだけではなくて濃度が上がったりpHが低下することによっても生じます。pHが低下する主要な原因はもちろん酸です。疲労した筋には乳酸がたまって濃度が上がりpHが低下するのです。それによって、ヒアルロン酸の化合物が通常の水溶液の状態からジェル状になり始め、その結果、筋膜の滑走性が失われるのです。
ヒアルロン酸の鎖の列を切り離す。ファシャルマニピュレーションの治療原理です。
この筋膜の滑走不全が起きた部位とは、通常2個の鎖でつながっただけのヒアルロン酸の化合物が、長い鎖状につながってしまったものです。これが生じると、その部分に、あるいはつながった先の遠位に痛みが出たり、あたかも抹消神経症状に似たしびれや痛みが生じます。さらには、運動器的な障害に留まらず内臓器の不調やPMS、そしてめまいなど自律神経系の症状も表出します。では、その解決策として何が有効なのか。その施術は、押して引っ張るという機械的なストレスをかけ、さらに摩擦によって熱を加え、ヒアルロン酸の束になった鎖を切っていくのです。言い換えると、固まってしまったものを散らしていくということです。これが、ファシャルマニピュレーションの治療原理です。
生活習慣や病歴を参考に、ラインの「ポイント」を見つけ出して圧を加える。施術のコアです。
ただ、治療にあたって、やみくもにラインに圧力をかけ摩擦を生じさせるのではありません。14本のラインには鍼でいうツボと類似する「ポイント」と呼ばれる箇所が全身に200以上あって、その一つひとつが特定の位置にあります。それを触診によって見つけ出し、圧をかけるのです。
なお、筋膜がこのような状態になってしまう原因には、手術などを含む身体の傷や筋肉の損傷、ギプスなどによる関節の固定や不動、そしてオーバーユースなどが該当するため、事前にカウンセリングを通してこれらに関する情報を取得することも極めて重要です。これらの情報が決め手になって、原因となるポイントが特定できるからです。